腹痛 | 大人の病気・症状 - Dr.みやけの家庭の医学
腹痛は内科では最も多い症状の一つですが、最も気を使うものの一つです。腹痛を起こす病気はさまざまですが、放置しておいても自然に治るものもあれば、診断が遅れると生命の危険につながるような重症な原因もあり気を抜くことができません。
一口に腹痛といっても、その症状や強さは患者の訴えから判断しなければならないことが多く、患者の訴えがあいまいな場合には診断に苦慮することが少なからずあります。また初発症状からは他の病気を疑わせ、原因となっている元の病気の診断が困難な場合もあります。たとえば急性虫垂炎では激しい胃痛とおう吐で始まることがあり急性胃腸炎と診断したものの、しばらくしてから右下腹部に痛みを生じてきてそれと分かることがあります。
腹痛を生じる個々の病気の詳しい説明は別に譲ることにして、腹痛をみた場合の診察と検査の流れを述べてみましょう。腹痛の診断で間違いを少なくするために経験から得たものですが、一般の方の参考にしていただければと思います。
急性の腹痛 (イラスト1)
急に起こってきた急性の腹痛と、以前から持続している慢性の腹痛とに分けて考えるのが便利です。急性の腹痛の頻度としては、一番多くみられるものは急性胃腸炎でしょう。急性胃腸炎の原因はさまざまでかぜによるウィルス性のものから、ストレス、食事の不摂生、アルコールの飲み過ぎ、食中毒 などが挙げられます。激しい胃の痛みとおう吐、下痢などを伴うことがありますが、急性胃腸炎とはっきりと診断できる場合は簡単です。
注意を要するのは、急性胃腸炎と思いこんでしまい、別な原因で起こってきた腹痛を誤診してしまうことです。急性胃腸炎の他に腹痛の原因として頻度の多いものは、急性虫垂炎、急性胆のう炎(胆石の発作)などがあります。腹痛というよりは激しい背部痛・腰痛が急に起こってきたときには尿管結石を考える必要があります。さらに腸閉塞も比較的よく遭遇します。急性虫垂炎、急性胆のう炎、尿管結石、腸閉塞の4つは急性の腹痛の原因として急性胃腸炎以外では本院で最も多いものです。
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急性の腹痛の原因で頻度は少ないものの、腹部大動脈瘤切迫破裂、急性膵炎、急性胃拡張、婦人科疾患によるもの(卵巣腫瘍、子宮外妊娠破裂、生理に伴う機能性腹痛など)、心筋梗塞なども経験されます。胃・十二指腸潰瘍の穿孔も考慮しなければなりません。
急性の腹痛ではこれらの原因をできるだけ速やかに診断・鑑別していく必要があります。腹痛の部位も参考になりますが、部位にこだわりすぎると診断を誤ることがあります。腹痛の原因を誤ると致死的になりかねず、腹痛をみた場合には検査の流れを作っておいて、その流れから診断していくのが誤りが少ないのではないかといつも考えています。
急性の腹痛の診断の流れ (イラスト2)
- 尿検査
- 血液検査(特に白血球検査などは速やかに行う)
- 腹部超音波検査
- 腹部レントゲン撮影
- 心電図
これらの検査は一般の診療所でも比較的簡単に行うことができる検査です。多くの疾患がこれらの検査で診断可能です(胃内視鏡や腹部CTなどの検査は重要ですが、一般診療所で即座にできる検査という点で、上記の検査をまず最初に挙げました)。
尿検査で潜血陽性ならば、尿管結石を疑うことができます。腹部エコーでは急性胆のう炎、胆石症、急性胃拡張、腹部大動脈瘤、婦人科疾患による腹痛の一部 などが診断可能です。腹部レントゲン撮影では腸閉塞、消化管穿孔などが、心電図では心筋梗塞が診断可能です。血液検査では、白血球数の増加から炎症の強さが判断できますが、リパーゼやアミラーゼなどが上昇していれば急性膵炎を疑うことができます。
これらの検査を必要に応じて組み合わせて行いながら診断を進めていくわけですが、今までに述べた疾患の中で外来で治療可能なものは、急性胃腸炎と尿管結石など一部のものに限られます。原因の分からない激しい腹痛が持続する場合には、いたずらに様子をみないで速やかに入院を勧める必要があります。
右脇腹の痛み
急性虫垂炎について
急性虫垂炎の診断は腹痛の中でも最もむつかしいものの一つであると痛感させられます。急性虫垂炎の痛みは最終的には右下腹部に生じてきますが、発症初期には激しい上腹部痛とおう吐などいかにも急性胃炎と思われるような症状を呈してくることが、稀ならずあります。急性胃炎と診断して翌日には急性虫垂炎の症状を示していた、という苦い経験があります。その時点では腹膜炎を併発していることが多いのですが、それでも急性胃炎と信じて疑わない患者もいました。このような間違いを最小限にするために、急性胃炎の症状では常に急性虫垂炎を念頭におきながら、右下腹部に注意を払う必要があると考えています。
小学生や小児ではさらに急性虫垂炎の診断は注意を要します。急性虫垂炎の痛みはかなり激しいため、診察室に入ってくるときにもおなかを押さえながら、背中を丸めていかにも苦しそうに入ってきます。右足、左足でそれぞれケンケンをしてもらうと、右足では腹部に響くためうまくできません。診察ベッドでも上を向いて寝ることができず、背を丸くして横になろうとします。小児では腹部所見や検査所見に加えて、腹痛の雰囲気から急性虫垂炎を疑うことは重要なことと思われます。また母親に半日しても腹痛が軽快しない場合には、急性虫垂炎の可能性があるかもしれない と十分に説明しておくことも大切です。
慢性の腹痛 (イラスト3)
正確には慢性の腹痛という名称はありませんが、ここでは数日以上持続する腹痛と考えたいと思います。急性の腹痛のように我慢ができない激しい腹痛ではありませんが、さまざまな程度に持続する腹痛にはいろいろな原因が含まれるために注意が必要です。
痛みの管理DRS 。
急性の腹痛の場合と違い、慢性の腹痛にはとくに多数の原因が考えられるために一つ一つの病気について詳しく述べることは困難です。しかし逆に特別な病気がなく痛みを感じることも実際には多いのです。腹部をさわるだけの簡単な診察だけでは正確な診断は困難と痛感させられます。必要に応じて腹部超音波検査、胃内視鏡、大腸内視鏡、腹部CTなどの検査を駆使しながら診断を進めていく必要があります。それではこのような検査からどのような内臓の病気が分かるのでしょうか?
その前に腹部の各臓器の位置関係をみてみましょう。(イラスト4,イラスト5)上腹部の痛みというと胃の病気が頭に浮かびますが、実際には上腹部には胃以外にも、肝臓、胆のう、総胆管、膵臓などの重要な臓器があるため、これらの原因も常に考える必要があります。一方ヘソから下腹部にかけては臓器は限られており、ほとんど小腸と大腸で占められています。
下腹部は女性では子宮や卵巣が含まれるため、女性の下腹部痛では常に卵巣と子宮の病変を考える必要があります。背部の痛みは、腎臓、膵臓、腹部大動脈、腰椎の病気のなどが位置的には考慮されます。
内臓の病気と異なりますが、帯状疱疹(ヘルペス感染症の一つ)という皮膚病のごく初期(特有の水疱の出る前)には、ピリピリとした特徴ある痛みを生じることがあります。
慢性の腹痛の診断の流れ (イラスト6)
一般に腹部超音波検査では、胃腸の病気の診断は困難ですが、肝臓、胆のう、総胆管、腎臓、腹部大動脈などは比較的容易に調べることができます。おう吐や上腹部痛を生じて急性胃炎と思って調べてみると胆石による急性胆のう炎であった ということは常に経験されます。
また女性の下腹部痛の時に腹部超音波検査で調べることは大切です。卵巣腫瘍、子宮筋腫などの子宮の変化、排卵期の卵巣の変化、腹腔内への出血などが内科でも多く経験されます。このようなときには婦人科への紹介が必要です。
胃腸の病気を腹部を押さえるだけで診断することは至難の業と思われます。胃腸に限らず消化器の症状では常に悪性腫瘍を考えなければならないので、しばらく治療を受けても良くならないときには、常に胃内視鏡や大腸内視鏡を受ける必要があります。若い方の胃ガンや大腸ガンもまれではありません。また胃内視鏡で急性胃炎か胃・十二指腸潰瘍か区別することは治療内容を決める上で重要です。
膵臓の病気の発見は困難を伴います。腹部超音波検査でも検査可能ですが、病気を見つける上では腹部CTや血液検査などを併用していく必要があります。腎臓の病気は尿検査や腹部超音波検査、腹部CTで詳しく分かります。前立腺も超音波検査で検査可能ですが、前立腺ガンの発見には血液検査(PSA、PAなど)がきわめて重要です。排尿前の膀胱は腹部超音波である程度分かります。超音波検査で膀胱腫瘍が見つかることがあります。
このように慢性の腹痛の診断のためには、まず比較的容易な腹部超音波検査、尿検査、検便、血液検査を行い、胃腸や膵臓を除いた内臓(肝臓、胆のう、総胆管、腎臓、前立腺、膀胱、卵巣・子宮など)について調べることができます。胃腸の病気が疑われるときには、年齢に関係なく常に胃内視鏡・大腸内視鏡検査を勧めるべきと考えられます。
しかしこのような検査をしても異常が見つけられない腹痛の例もあります。ほとんどの場合は心配ないと考えられますが、経過観察の上、良くならないときには専門医に紹介してさらに詳しく調べてもらう必要があります。とにかく腹部の病気は多彩なので慎重さが必要と思われます。
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