真菌感染症 - MyMed 医療電子教科書
最終更新日:2010.11.10
fungal infections
執筆者: 小林 茂俊
概要
真菌が人体に起こす感染症を真菌感染症という。真菌感染症は表在性真菌症と深在性真菌症との二つに大別される。前者は真菌感染が皮膚(爪、髪をふくむ)および粘膜に限られる場合、後者は感染が内臓にまでおよぶ場合である。表在性真菌症は通常軽症であるが、深在性真菌症は重症化することも少なくない。特に免疫機能が低下している人(臓器移植を受けた人、悪性腫瘍の治療を受けている人、エイズ患者など)では、急速に全身に広がり、死に至ることもある。
また、ヒストプラスマ症、ブラストミセス症、コクシジオイデス症などの真菌感染症は、健康な人にも重い症状を起こすことがある。真菌は細菌とは構造が異なることから、通常細菌感染の治療に使われている抗生物質は効果がない。もちろん真菌� ��染症に有効な薬剤はあるが、効果はかならずしもいいとは限らず、容易に殺せないこともある。特に深在性の場合は、治療に長期間を要する場合もある。ここでは小児科領域で日常的によく見られる表在性真菌感染症、皮膚粘膜カンジタ症と白癬について主に述べる。
病因
病因となる真菌は植物の一種で、その仲間には酵母やカビ、キノコ類などがある。カンジタなどは皮膚や消化管などに常在しており、通常は疾病を引き起こさないが、時に皮膚や爪、口腔内、副鼻腔などに局所的な感染症を起こすことがある。このような常在真菌による感染症を内因性真菌症とも呼ぶ。それに対し、アスペルギルス、クリプトコッカス、ムコールなどの外来性の真菌による感染症を外因性真菌症という。
沸騰の連鎖球菌
病態生理
宿主(患者)の局所および全身の免疫能の低下がある場合、真菌の増殖しやすい環境がある場合などに発生する。たとえば、おむつの中などの多湿で真菌が増殖しやすい条件下ではカンジタが増殖し、寄生菌性紅斑が発生することがある。真菌には効果がない抗生物質の過度の使用によって真菌の増殖を抑制している常在菌が死んでしまうことにより、かえって真菌が増えすぎてしまう場合もある。局所の免疫機能を低下させる薬剤、たとえばステロイド吸入薬や外用薬により、真菌感染が助長されることもある。前述したように、悪性腫瘍の治療を受けている場合など全身の免疫能が低下している場合にも真菌感染が出現する場合がある。
皮膚粘膜カンジタ症
カンジダ症は、モニリア症やイースト感染症とも呼ばれ、カンジダ‐アルビカンスCandida Albicansをはじめとするカンジダ属の真菌が起こす感染症である。カンジダは皮膚、腸管、女性の生殖器周辺に常在している。カンジタ症の中でも、小児によく見られるのは鵞口瘡、乳児寄生菌性紅斑などの皮膚粘膜カンジタ症である。
鵞口瘡(急性偽膜性口腔カンジタ症)
口腔内の粘膜にカンジタが感染するもので、乳児期によくみられる。前述した理由から、抗生物質の投与がきっかけになることもある。ほとんどは乳児期に発症するが、最近喘息の治療薬として使用される吸入ステロイドの普及とともに、その副作用としての鵞口瘡が増えている。吸入ステロイドの使用後にはしっかりとうがいをして、口腔内に付着したステロイドを取り除くことが必要である。
臨床症状
頬の粘膜や舌、歯肉にミルクかすのような白いもの(偽膜)が付着する。付着は比較的強固であり、指でこする程度では容易にはがすことはできないのが特徴である。無理にはがそうとするとびらん状となり、出血する場合もある。
診断
症状から診断は容易であるが、顕微鏡で酵母、仮性菌糸を確認するとより確実である。真菌培養によって、培養同定する場合もある。
"関節炎の股関節痛の症状"
治療
自然に治癒する場合も多いが、範囲が広い場合、食欲が落ちるなど随伴症状がみられる場合は抗真菌薬の硝酸ミコナゾールの口腔用ゲル外用薬を塗布する。抗生物質が誘因になっていると考えられる場合は抗生剤の必要性が低ければ中止する。
予後
1~2週間程度で治癒する。
乳児寄生菌性紅斑
臨床症状
乳児で多いのはおむつの当たる部位だが、その他、首や腋の下などでみられることもある。赤い紅斑が陰股部を中心に広がり、特にしわのところは強くみられる。紅斑は境界がはっきりしていて、膜様鱗屑、粃糠疹を伴う。紅斑の周辺にまるで衛星のように、膜様鱗屑を伴う赤い丘疹、小膿疱が見られるのも特徴である。
通常のおむつかぶれと診断されて、非ステロイド系抗炎症薬やステロイド薬で治療されることも多いが、それでは治癒しない。しかしながら、皮膚真菌感染の臨床症状が生じる一つの要因として、菌体成分に対する接触皮膚炎があると考えられていること、糞尿による汚染、分解物による刺激による症状が併存していることが少なくないことから、発赤などの症状の一部はステロイドなどにより改善することが ある。それをもって軽快していると判断されることもあるので、注意を要する。
診断
症状から診断は容易であるが、顕微鏡で酵母、仮性菌糸を確認するとより確実である。真菌培養によって、培養同定する場合もある。前述のように通常のおむつ皮膚炎との鑑別は重要である。
治療
ミコナゾール、クロトリマゾール、テルビナフィンなどの抗真菌外用薬を塗布する。改善した場合でもすぐに外用薬をやめず、合計で2週間程度しっかり塗布するほうがよい。
予後
2週間程度で治癒する。
減量のためにCLA
浅在性白癬
浅在性白癬は皮膚糸状菌(白癬菌)の表皮の角質層、毛包、毛髪、爪などへの感染による疾患である。人や動物から人への直接接種、スリッパ、絨毯、床、などを介しての間接接種によって感染する。主に感染部位により、頭部白癬(シラクモ)、体部白癬(ゼニタムシ)、股部白癬(頑癬、タムシ)、足白癬(水虫)、爪白癬、手白癬等に分ける。成人ではその70%が足白癬であるが、小児では頭部白癬が最もよくみられる。足白癬は少ないが、家族に足白癬の人がいる場合は頻度が高くなるので注意を要する。小児でも思春期以降になると、特に男性では体部白癬、股部白癬がみられるようになる。
頭部白癬
頭部白癬は、衛生状態の改善とともに減少していたが、ペットの動物、特に猫由来の感染が見立つようになった。特に小児は接触する機会の多いことから感染しやすい。家族内感染もよくみられる。学校などで集団発生する場合もある。Mycosporum canisやTricophyton violaceumの感染が多い。
臨床症状
頭部白癬は単発のこともあるし、散在性に多発することもある。丸い粃糠様落屑を伴う脱毛斑(パッチ状に髪が抜ける。)で、かゆみがある。軽く毛を引っぱっただけで、病巣部の毛が容易に抜けるケルスス禿瘡(とくそう)は一種のアレルギー反応によって起こる病態で、頭部白癬の誤診によりステロイド外用薬を使用されていた場合などに生じることが多い。急性に痛みを伴った皮下の腫瘤を生じ、拡大して排膿する。
診断
上記症状と鏡検、培養にて行う。脂漏性湿疹や頭部粃糠疹との鑑別は重要である。
治療
抗真菌薬のグリセオフルビン、イトラコナゾールなどを内服する。臨床症状の消失を見て中止するが、2~3か月かかることが多い。外用は局所の反応が誘発される場合があるので行わない。禿瘡では過剰なアレルギー反応を抑えるためステロイド内服薬を使用する場合がある。
予後
上記治療により2~3か月程度で改善する。
体部白癬、股部白癬
思春期以降の男児に多いが、最近は環境の清潔化により少なくなってきている。Trichophyton ruburum、Trichophyton mentagrophytes、Epidermophyton floccosumなどの感染が多いが、炎症の強いものはMicosporum canisを疑い、動物との接触歴に留意する。
臨床症状
中心が治癒傾向にあり紅色丘疹が堤防上に取り囲んだ、同心円状の環状紅斑で、非常にかゆいことが特徴である。
診断
上記症状と鏡検により診断する。乾癬、ジベル薔薇色粃糠疹などと鑑別する。
治療
クロトリマゾール、ミコナゾール、ラノコナゾールなどの抗真菌薬を塗布する。症状が改善しても、さらに1~2週間程度は塗布を続けるとよい。
予後
治療により、2~4週間で治癒する。股部白癬は再発しやすい場合がある。
(MyMedより)推薦図書
1) IDATENセミナーテキスト編集委員会 編集 :市中感染症診療の考え方と進め方,医学書院 2009
2) 西原 崇創 著, 古川 恵一:そこが知りたい!感染症一刀両断!,三輪書店 2006
3) 岩田 健太郎 著:マンガで学ぶ感染症,中外医学社 2009
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